アジアの人口変動

国連の世界人口推計2022によれば、世界全域の65歳以上人口比率は2050年に16.4%、2100年には24.0%に達します。高齢化率を地域別にみると、欧州や北米などの最先進国の2050年の高齢化率は27.8%、東アジアおよび東南アジア地域全域でも25.7%まで高まります。
高齢化の背景には、出生率の低下と平均寿命の伸長があります。低出生率により世界全域の総人口の伸びも鈍化し、国連の中位推計では2086年に104.3億人でピークを迎え、その後漸減します。世界全域の合計特殊出生率は、2021年の2.3から2050年には2.1に低下し、平均寿命は2021年の71.0歳から2050年には77.2歳まで伸びます。
経済成長が始まると出生率低下がしばしば起こります。経済成長とともにその恩恵である豊かな生活をより多く享受しようとすれば、より高い教育を受ける必要があります。高学歴化した女性が社会に進出し、子どもを産み育てながら働ける環境が整っていなければ、子どもを持つコストが高まり、出生率は低下します。女性の社会進出により、経済的に自立できる女性が増えれば、結婚する動機も低下します。結婚が出産の条件となっている東アジア諸国では、出生率低下の大きな要因となっています。
出生率が高く維持されている初期段階では、社会全体で支えるべき人口が少なくなり、それまで増えてきた若年人口が労働力化するなど、いわゆる人口ボーナスが社会にもたらされ、経済成長が加速されます。しかし時間の経過とともに出生率の低下と、経済の豊かさに伴う寿命の伸長による高齢化は、労働力人口の減少だけにとどまらず、生産性の低下や年金・医療といった社会的負担の増加につながる人口オーナス(重荷)をもたらすことになります。
日本を含む東アジア諸国には経済成長を続けてきた国が多く、出生率低下も顕著な国が多いため、東アジア諸国全体では、生産年齢人口の総人口に占める比率は低下傾向にあります。国連の推計では、その比率は2021年の68.5%から2050年には57.8%まで低下します。東南アジア諸国全域を見ると、2021年の68.2%から63.5%となります。高齢化率は、南アジア諸国全体でも2021年の9.7%から2050年には19.6%へと急上昇します。
世界の高齢化は日本にも様々な影響をもたらします。アジアでは長期的に若年人口の減少が続きますが、経済成長を維持するためには、各国も労働力を確保することが必要となり、労働力の争奪を巡る競争が激しくなります。労働力確保が必要なのはアジア諸国だけでなく、北米や欧州などの先進地域に共通しています。そうなれば日本の労働力不足対策としての外国人労働力受け入れは、一段と難しくなります。
加えて東南アジアなどの高齢化と経済成長の鈍化は、アジアのマーケット縮小をもたらしかねません。市場開拓先としても人材送り出し地域としても、人口増が続くアフリカ諸国などと、これまで以上に緊密な関係を構築する必要性が高まります。

(2023年7月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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