アスリートの摂食障害

 2005年の陸上世界選手権の女子マラソンで6位に入賞した一流の女性アスリートが万引きで起訴され、窃盗罪で有罪判決を受けました。現役時代から摂食障害に苦しみ、窃盗症(クレプトマニア)が疑われていました。本人は、摂食障害が始まったのは実業団チームで厳しい体重制限を受けていた2000年以降と述べています。過食や嘔吐を繰り返す症状で、引退後もストレスを感じると食べ吐きで解消していたそうです。
 厚生労働省研究班の調査によれば、摂食障害患者は国内で推計約25500人おり、その9割が女性とされています。栄養不足による判断力低下や依存症などにより、万引きを繰り返すこともあります。アスリートは運動していない人より摂食障害が多いとされています。審美系といわれる新体操やフィギュアスケートで最も有病率が高いとされていますが、陸上、特に長距離アスリートでも高くなっています。単にそのスポーツのために痩身が要請されるのではなく、コーチとの関係も大いに影響しています。日本では全く知識のないコーチが多く、体重の増加を叱責されることも少なくありません。アスリートの栄養を含めた健康管理の対策が遅れています。
 長距離アスリートは、食事制限による痩せにより無月経となり、栄養不足になり疲労骨折を経験することが多くなっています。摂食障害につながりかねない食事制限を課される中高生ランナーは多くなっています。これは日本の陸上界の構造的な問題だと思われます。米国の全米大学体育協会では、栄養不足や無月経の選手を出場させない措置を取っています。今回のアスリートも日本の陸上界の指導のあり方の犠牲者ともいえます。一流の成績を上げるために、痩せろとか食べるなと言われ続けたことにより、摂食障害に陥り、アスリートを辞めた後も食行動の異常が続くことがあります。
 摂食障害は1020代の女性に多く発症し、体型や体重に対して病的なとらわれと身体イメージの歪みを主徴とする精神疾患です。過激なダイエットや意図的な拒食過活動、時には下剤や痩せ薬の乱用によって、健康が蝕まれていきます。病識に乏しく、治療に抵抗を示します。経過観察中に無茶食い(過食)発作を起こすことが少なくありません。大量の食べ物を過食した後に嘔吐を繰り返します。部活動などでの禁欲的な体重管理を契機に発症することが多くなっています。食行動の異常のみならず、抑うつや衝動行為、疎隔感など複雑な病態を示すようになります。今回のような盗癖につながることもあります。

(吉村 やすのり)

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