アルコール依存症の治療で、酒量を少なくする減酒の考えを取り入れる医療機関が現れ始めています。減酒向けの新薬の処方は進んでおり、専門外来を開設するクリニックも登場しています。減酒外来では、医師と摂取するアルコールの目標値を設定したうえで、実際の飲酒量を記録するのが一般的です。最近ではスマートフォンなどのアプリで飲酒状況を管理する患者が増えています。
減酒外来では、2019年3月に保険適用された飲酒量低減薬ナルメフェンの処方を受けることができます。ナルメフェンの処方は、1日平均のアルコール摂取量が、男性は60g、女性は40gを超えるといった基準を満たす依存症の患者が対象となっています。7割前後の方で、明らかに酒量が減った、意識がなくなるまで飲まなくなったなど症状の改善がみられます。一方、眠気や吐き気など副作用を訴える人もいます。
飲酒を自分で制御できなくなるアルコール依存症は、職場の欠勤や家庭内不和、うつ病の併発などを引き起こす患者が目立つようになってきます。従来の依存症対策は断酒の一択でした。患者側に酒を飲まない覚悟がなければ医師も受け入れを拒むのが一般的で、重症化しないと治療を始められない課題がありました。アルコール依存症は進行性の病気で、あくまで減酒は、中間目標という位置付けです。
(2020年1月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)