消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数が急伸し、G7で首位となっています。身近な食材が値上がりし、負担が家計に重くのしかかっています。実質賃金が伸び悩むなかで、仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は、家事の時短のため割高な総菜など中食への依存が強まっています。支出に占める食費の割合が高くなりやすい高齢者の急増も、係数急伸の理由であり、生活の質の劣化が懸念されています。
日本のエンゲル係数は、他国より上昇が急ピッチです。OECDによれば、日本は可処分所得の伸び率が他の先進国に比べて低迷しているうえ、65歳以上の高齢者の割合はトップです。エンゲル係数が高くなりやすい土台があるなか、物価高が直撃しています。値上がりの率でみると、庶民の味とされる食材ほど上昇が激しくなっています。
女性の社会進出の加速も、食費の負担増の一因になっています。20代後半や30代前半女性の正規雇用率は、この10年間で約14ポイント上昇しました。正社員同士の共働き世帯にとって、割高でも総菜といった中食などに依存せざるを得ない世帯は増えています。家計調査では食費に占める中食の割合は上昇基調で、2023年は15.8%と10年前より3ポイント高くなっています。
エンゲル係数は世帯人数が増えるにつれて高い傾向がみられます。子の人数が増えるにつれて、食費節約の工夫などに限界が生じることが一因と考えられます。若い世帯では、経済的な理由から希望の数の子をもつことをあきらめる動きも出てきかねません。
(2024年11月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)