オーダーメイドのがん治療

 国立がん研究センター中央病院は、個人ごとに最適な治療をするため、患者の遺伝情報(ゲノム)を検査するがんゲノム医療を先進医療に申請します。先進医療とは、公的医療保険の対象外で患者の全額自己負担となる医療技術について、保険診療との併用を認める制度です。がんゲノム医療の場合、遺伝子検査の技術費用は自己負担になりますが、それ以外の診察や検査に保険が適用され、患者の負担は軽くなります。
 細胞内の遺伝子がコピーされる過程などで、何らかの異常が起きると、がん細胞ができます。ゲノム医療は、患者のがんや正常組織から細胞を採り、次世代シークエンサーと呼ばれる専用の機械で検査して遺伝情報を読み込みます。得られた情報をもとに、治療法の中から最適なものを選定します。これまでの臓器ごとの治療から、遺伝子の変異ごとに異なる治療法へと選択肢が大きく広がります。がん細胞の遺伝子100種以上を網羅的に調べ、どの遺伝子に異常が起きているかを突き止め、変異に応じて薬などを使い分けます。個々の患者のがん細胞の特徴に合う抗がん剤を使うことができ、より効果的な治療ができるようになります。検査は数十万円かかり、これまで一部の施設で臨床研究や自由診療で実施されてきました。
 がんゲノム医療は、より高い治療効果が期待されますが、課題はいくつもあります。ゲノム医療の普及に伴い、患者や家族が予期しない遺伝情報を知る機会が増えてきます。遺伝性の病的な変異が見つかっても、何をどのように伝えるかの公的なルールがありません。健康管理に役立つ情報は伝えるべきで考えられますが、家族性の遺伝子異常を検査する体制整備も求められます。
 遺伝情報に基づく差別が生ずる可能性もあります。海外では、遺伝情報による差別を禁じる法整備も進んでいます。韓国では、2003年に雇用や昇進時に遺伝情報に基づき差別することを禁じる生命倫理法が成立し、遺伝子検査を受けることや、その結果を提出することの強制も禁止しています。フランスでは、2004年に生命倫理法を改正し、何人も、遺伝的特徴を理由とした差別の対象にすることはできないと明記しています。わが国でも遺伝情報に基づく差別の禁止などを目指す超党派の議員連盟が結成される見通しです。

(2017年12月26日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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