クレプトマニア報道に憶う

クレプトマニアとは、窃盗症や病的窃盗とも呼ばれる精神疾患のひとつです。通常の窃盗行為は、行為者が利益を目的として盗みを行うものです。これに対して、クレプトマニアは、十分なお金もあるのに物を買うお金を持っているにも関わらず、窃盗を繰り返してしまいます。窃盗をする物自体には大して関心を示さず、窃盗後、盗んだ物を捨ててしまうこともあります。
その診断基準は、A.個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される、B.窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり、C.窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感、D.その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない、E.その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されないとされています。
クレプトマニアが合併しやすい疾患に摂食障害があります。拒食や過食を繰り返すことにより、過食をするための食品を万引きしたことがきっかけで万引きが常態化し、クレプトマニアになってしまいます。スーパーで菓子などを万引きしたとして、窃盗の罪に問われた陸上の世界選手権女子マラソンの元代表選手も、クレプトマニアです。現役時代から続いていた過食と嘔吐を繰り返す摂食障害に伴って、大量の食品を欲し、判断力や自らの行動、衝動を制御できなくなってしまいました。
この選手がクレプトマニアになった原因は、陸上競技をしていた頃の指導方法にあります。激しい運動に加えて、体重コントロールのための極端な食事制限により拒食になり、その後過食症になってしまいました。特に長距離選手は体重制限を強いられ、栄養失調とともに無月経になり、骨量が低下し、多くの選手が骨折を経験しています。高校時代や大学時代、実業団での指導者に対して、女性アスリートのための健康教育が必要となります。これまでの指導者の中には、体重が減少し、月経が無くなるまで位に頑張ることが必要だと平然と言う人もいました。選手が素晴らしいパフォーマンスをするためには、女性アスリートの健康力の維持が大切となります。そのためには産婦人科医がチームドクターとして加わり、栄養、体重のみならず月経の管理をしていかなければなりません。
彼女は、現在のわが国の陸上界が抱える様々な問題の犠牲者ともいえます。もう一度社会で更生する機会を与えるのが相当として、執行猶予付き判決を受けたことは良かったと思いますが、一日も早く病気を克服されることをお祈りいたしております。世界選手権で6位に入賞されたような超一流の選手ですから、努力できる才能があるはずです。同じ病気で苦しんでいる患者に、努力する姿を是非とも見せてほしいものです。

(吉村 やすのり)

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