世界を大きな混乱に陥れた新型コロナウイルス危機には、思わぬ副産物もありました。その一つが大幅な温暖化ガスの排出量の減少です。もっとも経済活動の急収縮に頼った排出削減は、経済の回復とともに後戻りしかねません。コロナ後の復興をどう脱炭素につなげていくか、グリーンリカバリーの知恵が問われています。
グリーンリカバリーとは、新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退への対策で、環境を重視した投資などを通して経済を浮上させようとする手法をさします。気候変動への対応や生物多様性の維持といった課題の解決に重点的に資金を投じ、そこから雇用や業績の拡大で成果を引き出します。先進国を中心に、各国がグリーンリカバリーを意識した景気刺激策を相次いで打ち出しています。
世界で異常気象が相次ぎ、気候変動への対応は世界共通の優先課題です。地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定は、地球の気温上昇を産業革命前から2度以内に抑えることを掲げています。日米欧のほか中国も、温暖化ガス排出実質ゼロを掲げ、水素活用の推進などに巨額の資金を投じる方針です。
気候変動対策に反する活動への批判も高まっています。国が環境負荷の高い産業を支援することは、投資家などから批判を浴びています。民間では、石炭火力発電所からの投資引き揚げなど、より環境を配慮した行動へのシフトが進んでいます。グリーンリカバリーは、今後の経済回復の局面で、コロナ拡大前と同じ生活や企業活動に戻るのではなく、新しい形態に転換しようとする動きを加速するためのカギを握っています。
(2021年1月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)