がんゲノム医療においては、がん細胞の遺伝子変異を一度に100種類以上解析できるパネル検査で調べ、専門家によるエキスパートパネルが患者に見合った治療を検討します。2019年6月に、2種類の検査に公的医療保険が適用されました。対象は、がんが再発するなどして標準治療が受けられない患者や、小児、希少がんなどの患者です。検査は、がんゲノム医療の連携病院や中核拠点病院など全国206病院で受けることができます。
厚生労働省の調査によれば、この1年で約5千人が検査を受けています。保険適用直後の2019年6月から10月には、回答した134病院で805人が検査を受けていますが、治療薬に結びついた患者は10.9%の88人にとどまっています。検査が保険適用されても、遺伝子変異に対応した治療薬が少ないことが原因です。治験を行う病院が、首都圏に偏っているのも課題です。検査は全国で受けられても、治療の選択肢に地域差があります。
患者から得られたがん細胞の遺伝子や治療の情報は、患者の許可を得て匿名化した上で、がんゲノム情報管理センターに登録し、データベース化しています。製薬企業や大学の研究者らもデータを活用できるようにし、薬の開発や研究を推し進めます。パネル検査を受けた患者の多くに薬を届けられるように、研究を加速することが大切となります。
(2020年7月25日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)