ゲノム医療法の成立

人によって異なる遺伝情報を使った医療の推進と、遺伝情報による差別が生じないようにすることなどを定めたゲノム医療法が、6月に国会で成立しました。がん細胞の遺伝子を調べ、それに対応した治療薬を選んで使うなど、ゲノム医療への期待は大きいものがあります。一方で、将来どんな病気を発病しやすいかといったことが分かる場合もあります。ゲノムは生まれながらに固有の究極の個人情報とも言われ、生命保険や雇用、結婚、教育などの場面で不利益な扱いを受ける懸念もあります。
ゲノム医療が発達するためには、治療や研究のための検査で得られた情報は、保険や雇用など他の目的には使われないと、制度的に担保される必要があります。そこに、この法律の意義があります。しかし、この法律には違反しても罰則がなく、実効性が薄いという指摘もあります。
海外では、いくつかの国で、罰則つきの法律が定められています。米国の遺伝子情報差別禁止法(GINA)では、保険会社などが違反した場合、制裁金が科される可能性があります。カナダで2017年に施行された法律では、違反に対して最大100万カナダドル(約1億円)の罰金が科される可能性があり、他の国と比べても極めて厳しい罰則が定められています。
現時点で罰則がなくても、法律ができる意義は大きいと思われます。法律ができれば、国は、その法律に基づいた施策を実行するため、様々な検討を重ね、今後の計画を立てていくことになります。そのことに意味があります。ゲノム医療に関わる技術は今も発展中で、現時点の議論だけが有効性を持つのではなく、将来、その時点での技術や社会の状況に応じた検討を加えていく必要があります。

(2023年7月19日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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