遺伝子操作の革命とされるゲノム編集技術であるクリスパー・キャス9の医療応用が現実化してきています。クリスパー・キャス9は、生命の設計図とされる遺伝子を自在に切り貼りできる技術です。これによる治療は遺伝子の異常が原因で起きる遺伝性疾患の治療に有効とされ、各社は難病や希少疾患向けの治療薬の実用化を目指しています。
米治験データベースによれば、クリスパー技術を使ったゲノム編集治療は、既に50件近い治験が登録されています。インテリアのほか、クリスパー、米エディタス・メディシンの3社が先行しています。眼科領域や血液難病、がんなど様々な遺伝性疾患の治療薬を開発しています。患者数が極めて少ない難病は、7千種類近くあります。1回の治療費が1億円を超える薬も多く、世界の希少疾患関連の市場は年約20兆円で、年間成長率を10%以上と予測されています。
エディタスが治療対象にするレーバー先天性黒内障は、海外では10万人あたり2~3人、日本では全国で1千人程度の患者がいると推計されています。インテリアなどが挑む鎌状赤血球症は、日本人の患者はほとんどいないとされていますが、海外では毎年30万人程度の子どもが発症するとされています。日本では、モダリスがエディタスとクリスパー技術のライセンス契約を結び医薬品を開発しています。先天性筋ジストロフィーという難病治療に活用するため、2022年の治験開始を目指しています。
しかし、ゲノム編集技術を用いた医薬品候補の安全性は、いまだ完全には証明されていません。異常な遺伝子の一部を切り取ろうとした過程で、誤って正常な遺伝子を切り取ってしまうリスクが残ります。正確に狙った場所だけを編集できる技術が重要です。
(2021年8月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)