11月27日、香港で3年ぶりにゲノム編集の国際会議が開催されました。その会議で、中国の研究者がゲノム編集で受精卵の遺伝子を操作し、世界初の双子を誕生させたと中国の研究者が発表しました。受精卵へのゲノム編集の臨床応用は、安全性の問題が未解決で、実施するのは無責任だとの意見が多く聞かれました。ヒトの受精卵にゲノム編集を行った基礎研究の論文は、英米中などから少なくとも計8本出ていますが、子どもを産ませる臨床応用ができるほど安全な技術とはいえません。
受精卵にゲノム編集を行うと、狙った改変とは別に、染色体の一部が失われたり、増えたりした結果が発表されています。病気に関わる遺伝子が改変されれば、健康被害につながります。しかし、技術開発が進めば、遺伝性疾患の原因遺伝子を修復し、病気の予防などに役立つと期待されています。
研究の進め方や政策に市民の考えを採り入れる活動は、パブリック・エンゲージメントと呼ばれています。受精卵のゲノム編集は改変が世代に影響し、安全性と倫理の両面でことさら重い課題があるだけに、この手法が注目されています。ゲノム編集技術の人への応用の規制のあり方について、日本でも科学界と一般の人が一緒に本格的な議論を進める必要があります。
近年、遺伝情報の最小単位である塩基を一つ書き換える技術ベース・エディティング(塩基編集)が注目されています。ヒトの細胞の実験で従来のゲノム編集と比べ、遺伝子を改変する成功率が高かったという結果が示されています。ベース・エディティングは、将来遺伝性疾患の原因変異を修復する有効な戦略になりうるとされています。病気に関わる遺伝子変異の6割は、1塩基の変異が原因とされています。そうした修復は従来のゲノム編集だと難しく、この新たな技術が適しているとする研究者もいます。
(2018年12月13日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)