ゲノム編集を考える

中国人研究者が、受精卵のゲノム編集で双子が生まれたとの報告をしたことに対し、世界から非難の声があがっています。ゲノム編集は、遺伝子を狙った場所で切断し、書き換える技術です。遺伝子を切って壊したり、別の遺伝子に置き換えたりすることができます。2013年に開発されたCRISPR-Cas9という技術においては、遺伝子を切断するはさみの役割をするたんぱく質と、狙った場所に運ぶ物質を使います。従来の遺伝子組み換え技術では、狙った場所に遺伝子を導入できませんでした。ゲノム編集を医療に応用する研究は大きく2つに分けられます。体の細胞の遺伝子を改変する方法と、受精卵の遺伝情報を編集する方法です。
遺伝性の病気は、特定の遺伝子が何らかの理由で正常に働かなくなって発症します。患者の体内でゲノム編集し、異常な遺伝子を働かないようにしたり、正常な遺伝子に置き換えて機能を補ったりします。こうした治療法は遺伝子治療と呼ばれます。一つの遺伝子が原因となる病気は数千あるとされ、こうした病気の治療に向けた研究が進んでいます。
体内でゲノム編集しても、遺伝子に変異のある細胞が多いと、全て修正できるわけではありません。治療効果が出なかったり、よくなっても再発したりする恐れがあります。精度が上がったとはいえ、現在の技術は未熟で、DNAの違う場所を切断し、細胞ががんになるリスクも指摘されています。体外でゲノム編集すれば、安全性は高くなります。患者から幹細胞や免疫細胞などを取り出し、遺伝子を改変できた細胞だけを患者に戻します。従来の遺伝子治療でも行われていますが、ゲノム編集なら効率よくできます。T細胞に遺伝子を加えてがん細胞を見つけやすくしたCAR-T細胞療法は、白血病などで高い治療効果を示し、注目されています。
中国の研究者は、エイズ感染を防ぐ狙いで、受精卵にゲノム編集を施したと主張しています。エイズウイルス(HIV)が細胞に侵入する入り口となるたんぱく質の動きを抑えて感染を防ぐと考えています。しかし、一部の細胞の遺伝子は改変できましたが、残りはもとのままという可能性もあります。もし健康に育ったとしても改変された遺伝子は、子孫に受け継がれていきます。優れた遺伝子を優先的に残すという発想から、優生思想に結びつく危険性も見過ごせません。

(2018年12月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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