ゲノム解析の進歩

2003年にヒトのゲノムが解読されて以来、ゲノムと病の発症の関わりを明らかにし、予防に生かすための研究が進んできています。個人のゲノム解読はコスト面でも劇的に身近になってきています。米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)が示す目安は、2001年時点では約1億ドル(約110億円)もかかりましたが、今は1000ドル(約11万円)ほどまで下がってきています。

DNAは、アデニン、グアニン、チミン、シトシンの4種類の塩基がペアになって連なる二重らせん構造をしています。塩基はそれぞれの頭文字からA、G、T、Cと呼ばれ、約30億のペアの並び順が人間の個性を決めています。DNAのうち、たんぱく質を合成して人体を形作ることに関わる1~2%の部分が遺伝子です。日本人の死因のトップであるがんは、遺伝子の変異によって引き起こされます。DNAのうち遺伝子以外の大部分は、ゲノムのダークマター(暗黒物質)と呼ばれる未解明の領域です。今後、多数の症例のゲノム解析によって研究が進み、がん発症のメカニズムを解き明かすのに役立つと期待されています。ゲノム解析は予防以外にも創薬や診断などの医療技術の革新を促します。しかし、究極の個人情報でもあり、そこから差別などの問題を生み出さないルール作りが課題となってきます。遺伝子の変異は誰でも起きるものであり、人間の多様性を示すものです。個人の身体に関わる膨大な情報が出てくる新しい局面に入り、まずは多様性への理解が大切となります。

(2020年3月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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