コロナワクチンによるアナフィラキシー

新型コロナウイルスのワクチンを接種した後、ごくまれにアナフィラキシーという急性のアレルギーを発症する人がいます。ワクチンが原因とみられる副作用で、意識を失うこともありますが、早めに処置すれば回復します。アナフィラキシーは様々な物質が引き金となります。ワクチンだけではなく、抗生物質や鎮痛剤、造影剤のほか、蜂や食べ物でも起こりえます。アレルギー反応が起きる理由には遺伝や生活環境も関係しています。
アナフィラキシーは、全身に激しい症状が表れます。発症した人のうち、じんましんやかゆみなど皮膚に症状が出る人が8割、ぜいぜいしたり息苦しさを感じたりする呼吸器系の症状が約半数の人に出ます。血圧が低下し、意識を失う人も2~3割いるとされています。嘔吐や強い腹痛が起こることもあります。花粉症や食物アレルギーも同じアレルギー反応ですが、アナフィラキシーは、体の2つ以上の臓器で異変が表れます。
米疾病対策センター(CDC)によれば、およそ20万~35万人に1人がワクチンを接種した後にアナフィラキシーを発症しています。米ファイザーのワクチンで100万回あたり5回、米モデルナ製で2.8回でした。ファイザー製は約994万人、モデルナ製は約758万人が接種を受けています。英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、重度のアレルギー反応を起こすのは、10万回に1~2回の割合だったとしています。インフルエンザワクチンでは、アナフィラキシーは100万回に1.3回の頻度で発症します。
そもそもアレルギーは、体を外敵から守る免疫反応で起こります。原因物質が体内に入ると、これをやっつけようと、IgEという抗体ができます。抗体は肥満細胞という免疫細胞の表面にくっつきます。再び原因物質(アレルゲン)が対ア内に入って抗体とつながると、肥満細胞のスイッチが入りアレルギーを起こす化学物質が出ます。抗体を介さず、直接アレルゲンが肥満細胞を刺激してアレルギーを起こす場合もあります。
米国立衛生研究所(NIH)は、接種後にアナフィラキシーが起きるのは、ポリエチレングリコール(PEG)というワクチンに含まれる成分である可能性が高いとみています。米ファイザーが製造するワクチンは、mRNAという遺伝子情報を記録する物質を使っており、mRNAは分解されやすく、油(脂質)の膜にくるまれています。PEGは油の膜を安定化させるために入っています。PEGにアレルギー反応を起こす人は、塗ってかゆくなったりアレルギーが出たりする可能性が高いとされています。
CDCは、新型コロナのワクチンでアナフィラキシーを発症した人のうち、8割が過去に何らかのアレルギーの経験があったと報告しています。ワクチンや注射でアレルギー反応が出た経験がある人、ワクチン接種後30分間は気をつけるよう勧めています。症状は接種してからまもなく起きます。発症のタイミングは接種後30分以内がほとんどで、4分の3が15分以内、9割が30分以内でした。万が一に備え、日本では接種から15~30分間は会場などにとどまる計画です。発症しても、早めにアドレナリンを注射すればショック症状が起きるのを避けられます。

(2021年2月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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