新型コロナウイルスなどの感染症の患者から集めたデータを蓄積し、創薬研究などに提供する取り組みが始まっています。国立感染症研究所や国立国際医療研究センターを中心に、患者の血液などの試料の遺伝情報を解析し、診療情報などと共に研究用に企業などに提供します。国主導で整備し、感染症の流行時の治療薬やワクチンの開発などを促進します。
整備するのは、感染症を対象にしたバイオバンクです。患者の血液、唾液、鼻拭い液などの試料だけでなく、それを解析して得た人やウイルスの遺伝情報、患者の性別や年齢といった基本的な情報や病状、治療の経過などの臨床データも蓄積します。全国の医療機関などから患者や健康な人の試料や臨床データなどを集め、国立感染症など3機関で遺伝情報を解析します。それらのデータを国立国際医療研究センターや東京大学医科学研究所に蓄積します。厚生労働省が約40億円の予算で支援しています。
バイオバンクは創薬を促すと期待されています。患者の遺伝情報を調べれば、重症化した人に多い遺伝的な特徴が解明できます。体内でのウイルスの働きや免疫などに与える影響が分かれば、治療薬を探す手掛かりになります。ゲノム創薬と呼ばれる新しい手法で、従来の手法よりも効率よく新薬候補を絞り込むことができます。
海外では、新型コロナ対策などで、バイオバンクなどを使い、大規模データを解析する研究が重要になっています。フィンランドは、19カ国から集めた約5万人の新型コロナの患者の遺伝情報をもとにした研究成果を発表しています。英国は、2006年からUKバイオバンクを整備しており、50万人規模のデータを収集しています。
(2021年8月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)