京都大病院は、新型コロナウイルス感染で肺がほぼ機能しなくなった患者に、健康な人の肺の一部を移植する生体肺移植手術を世界で初めて実施しました。海外では新型コロナ患者への脳死肺移植を実施しています。米欧や中国では、新型コロナ感染後の肺障害に対する肺移植が20~40例実施されており、いずれも脳死からの移植でした。移植を受けたのは関西在住の65歳未満の女性です。夫の左肺の一部、息子の右肺の一部をそれぞれ女性の左右の肺として移植しました。
女性は昨年末に感染し、呼吸状態が急速に悪化し、体外式膜型人工肺(ECMO)を装着し、いったん回復し離脱後、再び悪化してECMOが必要となりました。PCR検査でウイルスは確認されなくなりましたが、後遺症で両肺が硬く小さくなり、ほとんど機能しなくなってしまいました。他の臓器に障害はなく、女性の意識もはっきりしていたものの、肺移植以外に救命できない状態でした。
生体肺移植は、健康なドナーに身体的な負担をかけることになります。わが国においては、脳死を人の死として広く受け入れている海外に比べると、脳死移植の件数は少ない状況にあります。生体肺移植は肺以外に臓器障害のない65歳未満が対象となっています。新型コロナでECMOを装着する患者は、持病や肺以外に臓器障害があることが多いため、対象患者は限定されると思われます。しかし、生体肺移植は、新型コロナで重い肺障害を起こした患者に希望のある治療法となりうると考えられます。今回の生体肺移植は、患者を救命した点では誇るべきことですが、脳死移植を増やしていく取り組みも必要です。
(2021年4月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)