コロナ禍を機に、わが国の企業においても、職務を明確に規定し最適な人材を充てるジョブ型雇用によって労働生産性を高める動きが出てきています。欧米のジョブ型では、雇用契約に関する記載を盛り込めば、業績不振や能力不足による解雇ができます。しかし、日本の場合、解雇要件を厳しくし限定した判例法理が確立しており、能力不足を理由に解雇は難しくなっています。年功序列や終身雇用を前提に社会を育てる従来のメンバーシップ型では、雇用流動性が低く、生産性が上がりにくくなっています。
日本型雇用を維持してきたのが、企業内労働組合です。欧州は、産業別や職種別労働組合が一般的で、非組合員を含めた賃金形成に大きな影響を持っています。米国では産業別に加え企業別の労働組合もありますが、組織率が低く、日本のように企業に対する社員の帰属意識は強くありません。
日本生産性本部の調査によれば、日本の時間当たりの労働生産性は、1970年以降、主要先進7カ国中で最下位の状況が続いています。就業者1人あたりの生産性でも、ジョブ型を導入している国に遅れをとっています。コロナ禍を経験し、日本でもジョブ型雇用に注目が集まっています。生産性改善には、年次主義を脱し、ポストにふさわしい人材を配置し、成果に見合った報酬を支払うことが必要になります。ジョブ型を機能させるには、評価の透明化や管理者教育などが急務となります。
ジョブ型では、職務内容や責任範囲が明確になり、在宅勤務のように直接のコミュニケーションが取りにくい環境でも成果を評価しやすくなります。わが国においてジョブ型を機能させるには、長年親しんだ労働慣行を変える必要があります。
(2020年7月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)