コロナ禍での医療現場逼迫の解決への道

新型コロナウイルスの感染拡大第3波は、わが国の医療体制の矛盾を露呈しています。日本は人口当たりの病床数が世界一多く、患者数が欧米諸国よりも少ないのに、なぜコロナ対応の病床が足りないという事態に陥ったのか考えてみれば不思議です。それは、わが国の自由過ぎる医療制度に基因します。患者にとっても、医療機関にとっても、自由であることは良いことですが、医療機関には、どこでどのような診療行為を行うかを自由に決める権利が保証されています。
イギリスでは、病院の多くは国営で、政府の方針に従い病床の半分をコロナ対応に充てています。病院がコロナ患者の受け入れ可否を自由に選択する余地はありません。コロナ以外の病気に対応する病床がそれだけ減ったことから、ロンドンでは、緊急性が高いがん患者が1,000人以上も手術を待たされる事態となっています。アメリカでは、国民皆保険制ではないため、手厚くカバーされる民間医療保険に加入できない貧困層は、十分な治療が受けられない状況が続いています。
欧米ほどではないものの、日本でも第1波に比べて医療現場が逼迫しました。その一因として、第1波と異なり、コロナ以外の疾病の患者も病院に来ているため、通常診療を蔑ろにしてまで、コロナ患者の受け入れはできないという民間病院側の事情がありました。前提にあるのは、コロナ対応をするかしないかという医療機関の選択の自由です。
コロナ後の病院経営の問題もあります。目下、コロナ対応に専念するとなれば、コロナ以外の患者は、他の医療機関に委ねなければなりません。他の医療機関に移った患者は、コロナ収束後に戻ってきてくれるかというと、患者側にもフリーアクセスで選ぶ自由があるので、移ったきり元の病院に戻ってこない状況も大いに考えられます。そうした懸念から、民間病院は安易にコロナ対応に回る決断を下せないことになってしまいます。
コロナ専門病院を作って、医療従事者を派遣すればよいではないかという考え方もあります。しかし、職業選択の自由があるからには、目先の診療や派遣だけしか考えないのは非現実的で、コロナ収束後も併せて考えなければなりません。医療機関も患者も医療従事者も一定の自由を保証されているわが国の制度はメリットは多いものの、コロナなどの有事にはかえって支障をきたすことにもなります。
医療機関に診療の自由を認めていることで、現状、余力のある民間病院に協力を要請するための法的な根拠がありません。地方自治体としては、医療機関に協力を要請しながら、病床確保に向けて双方が歩み寄って、結果的には勧告権を行使しないで済むような方策を考えるしかありません。こうした役割を担うのが日本医師会です。第1波が起こって、半年以上の期間があったのにもかかわらず、何の施策を講ずることができず、ただ国民に対して危機感だけを煽っているのは憂慮すべき事態です。
コロナ禍で、有事における医療機関間の連携の必要性が、改めて浮き彫りになっています。コロナ対応に回せる病床数も、携わる医療従事者数にも限りがあります。だからこそ連携を強化することで、病状に応じて対応できる病床を確保することが重要となります。都立墨東病院では、回復患者用の後方支援病床を確保することで、重症者を受け入れる余地を広げる地域完結型医療モデルを打ち出しています。このように役割分担しながら地域医療の連携体制を構築することが、医療逼迫を解消する一つの重要な方策です。

(Wedge March 2021)
(吉村 やすのり)

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