コロナ禍での家計金融資産の増加

家計の金融資産が初めて2000兆円の大台を突破し、過去最高を更新しました。円安・株高で投資信託などの保有額が膨らんだ半面、新型コロナウイルス禍で個人消費の回復は鈍く、現預金は過去30年で2倍に増えています。賃金が横ばいで推移し、若年層を中心に社会保障などの将来不安が根強いことが個人マネーを預貯金に向かせています。
最も多かったのは現預金で、1,092兆円と全体の54%を占めています。金融資産が初めて1,000兆円を超えたのは1992年で、30年かけて2倍になっています。新型コロナ禍も結果的に金融資産を増やす要因となっています。家計と企業の金融資産は2020年3月末と比べて、それぞれ200兆円ほど増えています。新型コロナ対応の給付金などで預金が増えたためです。
米欧と比べると、家計の金融資産に占める現預金比率は日本が突出しています。米国は1割、ユーロ圏が3割と、いずれも日本の5割を下回っています。家計の金融資産が成長マネーにまわらない一方、低成長で現預金の滞留を迫られる悪循環に陥っています。
過去30年間で米国の名目平均年収は2.6倍、ドイツやフランスも2倍程度に増えていますが、日本はわずか4%の上昇にとどまっています。少子高齢化で若年層を中心に社会保障への不安も根強く、家計の節約志向は解けないままです。バブル崩壊やリーマン危機で損失を出したトラウマ世代に金融資産が偏っていることも、マネー循環を妨げています。
日本経済はバブル崩壊後、低成長が続いています。GDPは540兆円ほどで伸び悩み、足元はコロナ禍前の水準をなお下回ったままです。豊かさなき2,000兆円は、日本経済の停滞を映し出しています。

(2022年3月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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