コロナ禍での鉄道乗客数の減少

コロナ下で鉄道経営の厳しさも増しています。国土交通省によれば、1カ月あたりの乗客数は2020年1月に21億人でしたが、一時ほぼ半減しています。在宅勤務などテレワークが広がり、2022年1月でも、16億人弱までしか戻っていません。JR本州の3社は、2021年3月期にそれぞれ過去最大の最終赤字を計上し、赤字額は合計1兆円を超えています。
このコロナ禍での鉄道乗客数の減少を受け、国土交通省が、航空などと比べて硬直的だった鉄道運賃の仕組みを見直しに向けて動き出しています。実現すれば混雑する時間を高くし、早朝は下げるといった柔軟な値決めがしやすくなります。今の運賃は、各社が国の認めた上限の範囲内でしか設定できない上限認可制度と呼ばれる仕組みです。例えばJR東日本の山手線は、11~15㎞までの上限が消費税など含めて200円に設定されています。上限を超える値上げには煩雑な手続きが必要で、実現まで1~2年かかります。
見直しの背景には、鉄道利用を巡る変化があります。新型コロナウイルス感染拡大下で、混雑緩和を求める声が強まっています。混雑時は高く、空いた時間は安くし、通勤客らを分散できれば密になって感染が広がるリスクを減らせます。柔軟な値決めでラッシュ時の乗客を分散できれば、ピークに合わせた人員の配置や車両などの設備投資によるコスト負担を抑えることができます。
日本の現行の上限認可制度は、生活インフラとして定着している鉄道で、過度な値上げを抑える目的で続いてきました。制度変更については、社会的な理解を得ることも必要です。地域の交通を独占する事業者が不当な値上げをしないように、利用者保護にも目配りした制度設計が必要になります。

 

(2022年4月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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