コロナ禍で所得の差によりデジタル格差が著明になってきています。所得階層別のテレワーク利用率をみると、所得が高くなるにつれ、1千万円前後の層まで利用率が比例して高くなります。特に3月以降は、所得が高いほど4~5月にかけて顕著に増加していることが分かります。緊急事態宣言解除後の6月でも、600万円以上の所得階層では30~40%を維持しています。一方で、低所得層の利用率は伸び悩んでいます。つまり所得格差とデジタル格差が連動しています。
この背景として、①テレワークに不向きな職種(単純労働)や業種(対面サービス)が存在し低所得者層に多い、②低所得層や中小企業はテレワーク環境を整える金銭的な余裕がないことなどが考えられます。テレワークにより業務を継続する企業がある一方で、テレワークの難しい対面サービスの業種が感染症対策の中心になっています。対面サービスの業種では休業要請や自粛により働けず、所得は減ります。このように所得格差とデジタル格差が連鎖して経済格差をさらに拡大させています。
テレワークを利用する就業者の間でも格差がみられます。大企業の就業者(従業者数500人以上)は、コミュニケーションの減少が36%、仕事の相談・指導の減少が30%など問題を感じる一方で、リラックスして働けるが23%、仕事時間の調整がつきやすいが17%、家族との時間が増えたが25%など利点も感じています。しかし、中小企業ではテレワークを利用していても仕事や生活の変化が乏しく、利点を感じる人が少なくなっています。大企業では問題を改善し利点を生かす環境を作れれば、テレワークを有効活用し生産性を大きく伸ばせます。しかし、大企業以外は利点を享受できず、テレワークの利用が伸びないという悪循環に陥りかねません。
コロナショックは、所得格差とデジタル格差という負の連鎖を生んでいます。テレワークを中心にデジタル経済が進むと、デジタル化の波に乗れない業種・職種や中小企業や低所得者が減収や失業に直面するだけでなく、定型業務を中心に職そのものがなくなってしまいます。低所得層を中心に大規模な失業や所得格差の拡大など社会的に深刻な問題が出てくると考えられます。
コロナ禍がもたらす経済的な格差は、健康の格差や子どもの教育の格差へ波及し、社会全体の破綻につながりかねません。長期的には、経済の復活とデジタル化をどう進め、デジタル格差と所得格差の連鎖を断ち切る政策が必要になります。
(2020年10月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)