コロナ禍における健康被害は、国により大きな差がみられます。168カ国・地域について、100万人当たりの死者数をみると、被害が大きいのはベルギーなどで1,800人を超えています。米国も約1,500人にのぼっています。被害が少ないのは台湾などで1人に満たない状況です。日本は54人で、少ない方に属しています。しかし、健康被害の格差がこれほど大きいにもかかわらず、経済被害は驚くほど小さいという点です。
渡辺努東京大学教授によれば、2020年のGDP損失は、米国ではGDPの6%が失われました。これは2008年のリーマン危機に匹敵します。健康被害の大きな米国で、大きな経済被害が発生するのは当然かもしれません。死者数が米国の30分の1にすぎない日本では、経済被害もそれに見合って小さくなってしかるべきです。しかし、実際には米国と日本の差はそれほど開いていません。医学と情報通信の発達で、経済への影響の出方が大きく変わってしまっています。
ロックダウンが経済危機を招いたとの見方があります。スウェーデンは、集団免疫の獲得を狙い国民の行動に規制をかけませんでした。にもかかわらず、経済は大きな落ち込みを示しました。強い規制がかけられた隣国デンマークと比較して、落ち込みは同程度との研究結果があり、経済被害はロックダウンの結果ではないことが示唆されています。
死亡などの健康被害が出たから経済被害が起きているわけではありません。健康被害を恐れた人々が、予防的に振る舞った結果として経済被害が起きています。こう考えれば、健康被害と経済被害がつながらないことも説明がつきます。自らが感染し重症化・死亡するリスクへの恐れから、自発的に外出を抑制しているともいえます。恐怖心と感染対策行動の間には、強い相関が確認されています。
(2021年3月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)