コロナ禍の医療体制支援の問題点

津田塾大学の伊藤由希子教授は、レジリエンスの観点から、新型コロナウイルス禍の医療体制の問題点を分析しています。
2020年度には、4.6兆円の緊急包括支援交付金などの医療機関支援策が講じられました。2020年度末までの交付額の約4割が、新型コロナ患者の受け入れ病床を確保した病院の空床確保料として使われています。緊急包括支援交付金は、診療の対価ではなく、いわば見えない医療費です。
2021年3月末時点で、1人当たりに換算した治療体制に対する交付額は、全国平均372万円にも達しています。軽症者が8割といわれる中、空床確保をはじめとした医療費外の支出が驚くほど高額であることがわかります。しかし、患者総数の72.3%を占める上位8都府県は、交付額では全体の47.6%を得るに過ぎませんでした。少なくとも感染拡大地域の医療提供体制を早期に立て直すレジリエンスにつながったとはいえません。
空床確保料は、集中治療室(ICU)1床空床確保につき1日当たり30万~44万円が交付されますが、実際に患者が入院すると空床時に匹敵する診療報酬は見込めないうえ、治療体制上のコストもかかります。感染拡大局面では、患者を受け入れるほど現場の人的負担が増すうえ、収入減につながります。一方、滅多に感染者が出ない地域の医療機関は、手厚く交付されることになり、赤字補填に使われています。真っ当に治療にあたるほど、損をする制度となっています。
日本は、人口当たり病院数も病床数も世界トップクラスですが、一病院当たりのスタッフは手薄です。各病院の役割の選択と集中が不十分で、様々な病態の患者が混在するため、各病院の受け入れ判断は、場当たり的です。最悪の場合、いざ感染者がいると知るや、皆が門戸を閉ざす医療になってしまっています。単に減収の補填をして病院の不満に応えるだけでは、医療提供体制の根本構造を変える機会を逸してしまいます。
非常時には、感染症患者の急増に対応できる急性期・高度急性期の診療体制を担う病院と、従前の診療体制を支えるため軽度な急性期や急性期後の患者を受け入れる病院がそれぞれの機能を発揮すべきです。不要な病床を減らし、人材や機器の中期的な融通を図ることが急務です。

(2021年7月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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