コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究成果が発表されています。2020年2~6月の医療体制は、結論としてこの期間、全体としての医療資源の逼迫は生じておらず、あったとしても局地的・部分的な逼迫であったとしています。しかし、医療資源の相当部分が、コロナ対策に生かされず、ミスマッチがあり、有効活用されなかったとしています。
567のDPC病院(比較的高機能な病院)のうち、コロナ患者を受け入れた病院は60.1%(341病院)で、全入院患者の3分の2が軽症者でした。コロナ患者を受け入れた病院の一般病棟の病床稼働率は、2月の81.5%から5月には61.6%に低下しています。コロナ患者の受け入れには、占有スペースの確保と医療スタッフの重点配置が必要であり、稼働率は低下しても医療スタッフは疲弊していました。一方で、コロナ患者を受け入れていない病院の稼働率も、2月の78.6%から5月の64%に低下しています。
2月の集中治療室であるICUの稼働率は、受け入れ病院で63.3%、受け入れなしの病院で69.3%でしたが、感染が拡大した5月にはむしろ低下して、受け入れ病院で49.3%、受け入れなしの病院で56.1%でした。受け入れ病院では、軽症・中等症で入院しているコロナ患者が、急変した時に速やかにICUに移ることができるように、また、コロナ患者以外の重症患者のためにも使用できるように、稼働率に余裕を持たせる必要があったと考えられます。しかし、受け入れなしの病院では、状況が逼迫していなかったと思われます。全体として日本ではICUの絶対数が、ボトルネックになったとはいえないようです。
コロナ患者を受け入れた病院のうち、62%にICUがあり、体外式膜型人工肺(ECMO)実施可能な病院は73%でしたが、集中治療専門医がいるのは48%にとどまっています。一方でコロナ患者を受け入れなかった病院でも24%にICUが、34.5%にECMOがあり、39%に集中治療専門医、呼吸器内科専門医のいずれかまたは両方がいました。
病院の収益は、感染拡大した5月の外来収益は、前年同月比で15%減、入院収益は14%減少しています。受け入れ病院の5月の収益は前年同月比15.4%減、受け入れなしの病院は6.2%減と、受け入れ病院の方が影響が大きくなっています。特に病院規模が大きいほど入院収益の減少は大きく、500床以上の病院では2019年の4~6月と比べて、同期比で平均3億円以上の入院収益が減少しています。
ICUやECMOというハード面の不足は、全体としての絶対数の不足というより、必要な時と場所に必要な量のハードが配置されていないという配分の問題であると思われます。専門人材の不足は、1病院あたりの専門医の不足の問題です。日本は、急性期病院の数が大変多く、専門医が分散してしまっています。コロナ患者の受け入れ病院で、重症者への対応が十分でなかったところが少なくない一方で、コロナ患者を受け入れていない病院には、設備や人材の両面で、重症者に対応できる潜在能力のある病院が少なくありません。今冬に向けては、こうしたミスマッチを回避することが大切です。
(2020年11月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)