病気や事故など様々な事情によって、多くの子どもの尊い命が失われています。こうした子どもの死を社会全体として予防していくための制度が、チャイルド・デス・レビュー(Child Death Review)です。多職種専門家が、連携して系統的に死因調査を実施して登録・検証し、効果的な予防策を講じて介入を行おうとする制度です。18歳未満の全ての子どもの死について、①医療機関はじめ複数の関係者の持つ情報を集め、②死亡の原因やとりうる予防策の可能性などについて多機関(多職種)で検証し、③そこで得られた事柄を提言として発出するという3つの段階からなっています。
個別検証では、医師や警察だけでなく、日常的に接している教師・保育士・保健師など当事者にかかわる様々な専門家が集まり、日頃の生活の中で気づきなどについて情報提供をします。こうした個別検証の結果を踏まえて、さらに地域で概観検証を行います。これは第三者が行うのが好ましく、客観的な目でさらに事例を精査しつつ、地域の中で介入していくべき優先事項などを決定するものです。高度な専門知識を持った人による検証が必要であれば、これに加えて専門検証を行う場合もあります。CDRは、責任の追及になることを避けるために、遺族ほか利害関係者は検証に参加せず、また特に概観検証においては匿名化に配慮して客観的な意見を集約することを特徴としています。
2019年の人口動態統計によれば、不慮の事故による死亡数は、0歳が78人、1~4歳が72人、5~9歳が56人、10~14歳が53人、15~19歳が204人となっています。死因順位を見ると、0歳では第3位、1~4歳、5~9歳では第2位、10~14歳では第3位、15~19歳では第2位となっています。事故死の死因の内訳を見ると、交通事故死が45%前後、窒息死が20%前後、溺死が約20%となっています。これらのデータから、ほぼ毎年、同じ年齢層の子どもに同じ事故死が起こっていることが分かります。現在、子どもが死亡した場合、いくつか検証が行われていますが、担当部署が異なっていたり、検証内容に濃淡があって、具体的な予防にはほとんどつながっていません。
CDRは、死因究明で明らかにされた事実をもとに予防の可能性を指摘する作業で、予防を実現することが重視されます。多職種の人が、それぞれの立場から予防案を提示して議論し、それを実現するための方法を検討し、実施されることまで検討します。CDRは事実の究明の場ではなく、あくまでもその子の死から学び、新たな同様の死亡を防ぐために、我々の実践を変えるという意識を行動に移すための仕組みです。
一定の頻度で子どもの事故死が起こり続けています。これまで、それぞれの担当部署で行われていた死亡検証が、CDRによって1か所で網羅的に検証することが可能となり、検証結果は社会で共有されることになりました。医療事故調査制度と同様に、CDRも死からの学びを社会の共有財産にするという理念に基づいています。
(2021年4月1日 月刊母子保健)
(吉村 やすのり)