「私の中のあなた」という小説、あるいは映画をご存知でしょうか。
小説は2006年に早川書房から翻訳出版され、映画は2009年に日本で公開されました。オリジナルのタイトルは『My Sister’s Keeper』と言います。これは、デザイナーズベビーの問題点を描いた映画です。デザイナーズベビーとは、着床前遺伝子診断を利用して、親が望む子どもを誕生させることです。もともとは遺伝子疾患のリスクを解決しようという発想から生まれたものが、その目的が多様になったという設定です。
「私の中のあなた」では、登場する姉妹の妹が、白血病である姉のドナーとなるために生まれてきたデザイナーズベビーで、生まれてから、臍帯血、輸血、骨髄移植などで犠牲となってきました。ところが妹は13歳(映画では11歳)の時、姉に対する腎移植を拒否します。そして両親を相手に訴訟を起こします。これから先、作品のラストまで申し上げてしまうことをお許しいただきたいのですが、映画と小説では結末が異なります。 妹が訴訟を起こしたのは、実は姉のアドバイスがあったからなのです。そして、妹は訴訟に勝ち、腎移植の拒否が認められる、というところまでは同じ設定ですが、映画では姉が妹に「今までありがとう」と感謝を述べて死んでいきました。一方、原作では、裁判に勝った妹が交通事故に遭い、植物状態となってしまいます。その結果、妹は姉のドナーとなり腎移植を行うという、非常に重いというか、苦いラストになっているのです。
あくまでも私の推測ですが、映画スタッフは原作のストーリーを「やり過ぎ」と判断したのではないでしょうか。これでは観客の共感を得られないと考えたのでしょう。ただ、ラストはさておき、あらすじには荒唐無稽という印象は持ちません。既に男女の産み分けがなされている現在、このようなデザイナーベビーの問題はいつ起きてもおかしくないように思います。いずれにしても、現在の生殖補助医療が持っている問題点だけでなく、親にとって子どもとは何かという根源的な哲学的命題まで内包している作品です。
2013年7月24日朝日新聞(夕刊)
2013年7月25日朝日新聞
(吉村 やすのり)