SNSで誹謗中傷を受けて悩んでいたプロレスラーの死がきっかけとなり、ネット上での攻撃的な書き込みが問題になっています。同様の被害はこれまでも繰り返され、被害者が匿名の投稿者を特定して責任を追及するのは容易ではありません。国や業界団体は、より迅速な対応を可能とする仕組みづくりに動き始めています。近年、総務省運営の違法・有害情報相談センターには、年間5千件を超える相談が寄せられており、相談者の半数近くが、悪口の書き込みなどによる名誉棄損の被害を訴えています。
自身の権利を侵害する書き込みについて、被害者はプロバイダー責任制限法に基づいて、ウェブサイトやSNSを運営する会社などに削除を求めることができます。また、同法に基づいて、匿名の投稿者の特定につながるIPアドレスなどの情報の開示を請求することもできます。しかし、現実に被害者が投稿を特定し、民事や刑事の責任を追及するのは容易ではありません。SNSの運営会社が情報の開示に応じなければ、裁判所に訴え出て開示を求めることになります。IPアドレスの開示にこぎ着けても、さらにIPアドレスの使用者を特定するために携帯電話会社などに名前や住所の開示を求めなければなりません。総務省は、4月に有識者会議を立ち上げ、被害者が裁判なしで、プロバイダーから任意で発信者情報を得やすくする方策などの検討を始めています。
(2020年5月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)