ノーベル賞受賞に憶う

日本のノーベル賞受賞は、今年のノーベル化学賞の旭化成名誉フェローの吉野彰氏で27人目です。自然科学分野では、昨年の生理学・医学賞の本庶佑京都大学特別教授に続き2年連続の受賞であり、24人目です。科学立国日本を象徴する出来事であり、喜ばしい限りです。リチウムイオン電池の開発という人々の生活を豊かに変えた研究が高く評価された結果です。企業内研究者のノーベル賞受賞は、島津製作所の田中耕一氏に続く快挙であり、企業で開発に取り組む研究者たちに大きな夢を与えたと思われます。
リチウムイオン電池は、軽量かつ高出力で、充電して何度も使えるのが特徴です。スマートフォンやノートパソコン、電気自動車に広く使われています。中でも電気自動車は、温室効果ガスである二酸化炭素を排出しない乗り物として期待されています。再生可能エネルギーの風力発電や太陽光発電で作り出した電気をリチウムイオン電池に蓄えれば、安定的に電気を使うことも可能になります。こうした環境面での貢献も授賞を後押ししたと思われます。これからの時代は、環境問題への対応で、電気エネルギー利用の関心が一段と高くなります。世界が目指す低炭素社会づくりに今回の電池技術は大いに役立ちます。
科学研究の実力は、国力を映し出す鏡とも言われます。成果から受賞まで20年、30年かかることを考えると、2000年以降今回で19人を数える日本の科学者の受賞ラッシュは、1980年代のわが国の研究に対する寛容さの賜物であると思われます。しかし、現在の研究力には覇気がなく、優れた論文の数からみた実力は、さまざまな分野で低下しており、知の拠点である大学のランキングもじり貧の状況にあります。今回のケースでは、米国の大学の基礎研究を日本の企業がうまく発展させて商品化に結びつけています。産学連携の重要性を改めて示したものと言えます。
近年、日本の若手研究者を取り巻く環境は厳しいものがあります。大学に残っても任期が限られ、腰を落ち着けて研究することが難しくなっています。このため、博士課程を目指す若者も減少傾向にあり、研究環境を整備することが欠かせません。今回の受賞が、若い研究者の励みになり、若手が挑戦を重ね、将来のノーベル賞につながる研究が生まれることが大いに期待されます。

(吉村 やすのり)

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