バイスタンダーとは、一般的に傍観者とか居合わせた人を指します。救急救命の場合、急病人や怪我人などが発生した場合の救命現場に居合わせた人を言います。このバイスタンダーである市民が、精神的な不調を訴える例が少なくありません。応急措置などを担い、救命率の向上に貢献する一方、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされることもあります。
救急講習を行うNPO法人の日本ファーストエイドソサェティが実施した調査によれば、全体の6割超が事故当時の状況を思い出すことでストレス症状を呈したと答えています。うち約3割は事故から4年が経っても症状が継続しています。バイスタンダーは、自分がやった事は正しかったのか、もっとできる事があったのではと不安や自責の念に苛まれる傾向にあります。抑うつや無力感、頭痛、めまいなどの身体的な不調なども生じることがあります。
市民にとって応急手当は非日常的な体験で、死傷者多数の事件・事故に限らず、日常的に起きる交通事故や急病人への対応でも、バイスタンダーの負担は懸念されます。
千葉県は、心肺蘇生を担った市民が精神的負担で医療機関を受診した際の医療費の一部を補償しています。東京消防庁や名古屋市は、バイスタンダー保険と題する制度で応急手当て時に負傷するなどして、入院や通院をした場合に見舞金を支払っています。総務省が全国722の消防本部を対象にした2023年の調査では、精神的なサポートをしている割合は全体の40.9%にとどまっています。心肺蘇生や自動体外式除細動器の使用を促すため、救命方法の普及のみならず、バイスタンダーの適切なケアが欠かせません。
(2025年5月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)