パンデミック感染症

新型コロナウイルスの感染拡大が、パンデミックとみなされました。古代に遡れば、中国と欧州を結んだシルクロードにより、商人の盛んな交流に伴い、インドが起源とみられる天然痘も東西に波及しました。日本にも仏教関連の文物とともに天然痘が持ち込まれています。
中世になると、欧州でペストが猛威をふるうことになります。肌に黒い斑点ができるため黒死病と呼ばれました。ペストは中央アジアで発生したと考えられています。13世紀にモンゴル帝国が西方に遠征し、ペストも欧州に伝わりました。交易が活発化しており、黒死病は欧州全域に波及し、欧州の人口の3分の1が死亡したとされています。ペストの脅威を防げなかった教会は権威を失い、人々の意識の中に国家の概念が生まれました。中世の封建的身分制度は崩壊に向かい、主権国家による近代が誕生するきっかけとなりました。
コロンブスの新大陸発見により、米大陸に天然痘が伝わりました。当時、欧州では天然痘が繰り返し流行しており、米大陸に赴いたスペイン人の多くには天然痘の免疫がありました。しかし、米大陸には天然痘は存在せず、先住民には天然痘の免疫がなく、そこにスペイン人が天然痘を持ち込み、先住民の間で大流行しました。死者が続出し、現在のメキシコにあったアステカ王国と、ペルーなどにあったインカ帝国は滅亡することになります。
1817年、インドで流行していたコレラが一気に広がり、中東や東南アジア、中国、日本などに波及してきました。コレラは、19世紀から20世紀初めにかけて世界的な大流行を繰り返しました。コレラが広がると、水道の整備など公衆衛生の充実が求められ、行政の役割が拡大し、大きな政府ができるようになります。
第一次世界大戦末期、1918~1919年にはスペイン風邪と呼ばれたインフルエンザが欧州で流行しました。米国で始まったスペイン風邪は欧州戦線の参加により、海路で持ち込まれました。世界中で数千万人、大正時代の日本でも約40万人が死亡しています。
歴史上、感染症は人やモノの移動に伴って波及してきました。今やグローバル化は格段に進み、新型コロナウイルスの広がり方も、従来の感染症に比べて圧倒的に速くなっています。過去の感染症のパンデミックをみると、大きな社会の変革をもたらしてきています。被害を最小限に抑えつつ、それぞれの集団の中で一定の人数が免疫を獲得すれば流行は終わります。大切なことは、今回の新型コロナウイルス感染のパンデミックにより、どのような社会の変革をするかにかかっています。

(2020年3月13日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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