次世代に対する遺伝子疾患の新たな治療法を開発するために、ゲノム編集技術によりヒトの受精胚の遺伝子改変をすることは、基礎研究として行われるとしても、臨床応用は現時点では時期尚早と考えられます。初期胚の段階の遺伝子の働きを解明することにより、ヒトの先天性の難病治療に資する知見が得られる可能性があり、これに期待することができること、さらに動物で確認できないヒトの遺伝子特有の作用を解明することができる可能性があり、基礎研究については社会的な妥当性があると思われます。
しかし、これまでの実験動物の受精卵へのゲノム編集の基礎研究の成果によれば、ゲノム編集技術による遺伝子改変の効率はまだ十分ではなく、多くの受精卵が必要となる状況にあります。またオフターゲット効果やモザイク発生のリスクがあり、遺伝子改変による他の遺伝子への影響を現時点では全く否定できません。後の世代のみならず、世代を超えて影響を残す恐れがあり、臨床応用は現時点では認められません。つまり、ゲノム編集技術を用いた受精胚をヒトの胎内に移植してはならないということです。
ヒト受精胚へのゲノム編集技術を用いる研究には、基礎研究に対する容認の余地を残すことが大切です。基礎研究実施のための今後は国の倫理指針や実施にあたってのガイドライン作製などの環境整備が必要となります。慎重な手続きを経て、科学的合理性、社会的な妥当性が認められるような基礎研究を社会に開かれた形で進めるべきです。
(吉村 やすのり)