ヒトゲノムの完全解読

人間のゲノムを解読するヒトゲノムプロジェクトは、1990年に立ち上がり、日米英独などが参加しました。2003年に解読完了が宣言されています。しかし、プロジェクトでは、長大なDNAを短い配列が何十、何百と繰り返されている部分があり、当時の手法ではこの部分が読めない空白になっていました。
20年前のプロジェクトは、ゲノム全体の90%以上を解読し、がん研究をはじめ医学・医療を大きく発展させました。しかし、当時の技術では8%ほどが解読できなかったのですが、近年、DNA配列を読む機器の技術が飛躍的に向上し、長い配列を正確に読めるようになりました。
今回、米国立ヒトゲノム研究所などのチームは、一度に最大100万塩基読めて多少精度の落ちる機器と、2万塩基ほど読めて精度が非常に高い機器を組み合わせて使い、最後は手作業で修正して、8%を含む全DNA配列を読むことに成功しました。成果を科学誌サイエンスで報告しています。
完全解読により、遺伝子の候補が新たに約2千個みつかり、そのうち99個はたんぱく質をつくるものと予測されています。今まで知られていなかった生命活動を担っている可能性があります。今回用いた細胞の遺伝的なルーツはヨーロッパ人とされ、アジアやアフリカにルーツがある人の完全配列はまだありません。研究チームは、今後、様々な遺伝的ルーツを持つ300人以上のゲノムを解読しようと計画しています。研究や医療への応用だけでなく、人間の多様性や進化の研究基盤にする目的です。

 

(2022年5月3日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。