プラセボの活用

良い薬を飲んだから、元気になるはずだと信じれば、あたかも病状が改善したようになることがあります。プラセボ(偽薬)効果と呼ばれるものです。薬の効果を確かめる治験で、偽薬は欠かせません。薬の有効成分を科学的に証明するには、プラセボ効果を差し引かなければならないからです。一般的には、薬を与える患者グループと本物そっくりな偽薬を与える患者グループを用意します。心理的な影響を排除するため、患者も医師も本物か偽薬かわからない状態にし、両グループの結果を比較します。薬の効果がプラセボ効果より高いということを厳密に証明する必要があります。
近年は、オープン・ラベル・プラセボと呼ばれる考え方も登場しています。医師が説明した上で患者らに偽薬を手渡す行為で、米国では過敏性腸症候群の子どもに使って痛みの改善を目指す研究が行われ、効果があったとされています。理由は不明ですが、薬を飲んで良くなった経験が、無意識に体に良い影響を与えている可能性があり、患者をだまさずに使える利点も大きいとされています。偽薬をうまく使えば、高齢化で膨らむ薬剤費を削減できる可能性があります。
薬を開発する治験では、偽薬を与えた患者グループにも副作用のような訴えが出ることがあります。治験への参加時に副作用の説明を受けているためだとみられ、訴えは本物の薬で起こる副作用のケースと同じ傾向になりやすいとされています。薬や医師への不信感がノセボ効果を生むとの見方もあります。ノセボ効果とは、医師から薬の副作用を説明され、プラセボにもかかわらず、副作用が表れることを言います。
有効成分を含まない偽薬の投与は、倫理的な課題も指摘されており、厚生労働省は近く、新薬の治験で偽薬を使わない手法の推進に乗り出す方針です。同じ病気の患者の診療経過を集めたデータの一部を抽出、偽薬グループと見なして比較するというものです。

(2023年7月8日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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