プレコンセプションケアの取り組み

 性や妊娠に関する十分な知識を身につけ、健康管理を促す「プレコンセプションケア」の対象となる年代が小中学生などより若い層へ広がっています。望まない妊娠の防止や人生設計の支援が目的です。プレコンセプションケアは、男女問わず性や健康に関する十分な知識を身に付けて、妊娠や出産などを含めた人生設計を考えて健康管理をすることです。2006年に米疾病対策センター(CDC)が初めて提唱し、日本では2021年2月に閣議決定した成育医療等基本方針で初めて言及されています。

 背景には、望まない妊娠をはじめとする男女の性や健康を巡る様々な社会課題があります。厚生労働省の衛生行政報告例によれば、2013年度における女性人口1,000人あたりの人工中絶件数を示す実施率が最も高いのは、20~24歳の10.8で、合計3万2,547件でした。20歳未満の中絶も約1万件みられます。

 日本産科婦人科学会の生殖医療のデータをみれば、不妊治療のピークは42歳であり、高齢になれば体外受精などの生殖医療を受けたとしても妊娠できる女性は1割に満たない状況です。早い時期から十分な知識を持たなかったことで治療時期も遅くなり、希望を叶えられないケースも多くみられます。

 より幼く、性への理解が不十分な年齢層に対しては、性被害を防ぐ知識の伝達もテーマになります。年中・年長児に対しては、幼児プライベートゾーン教育も大切となります。小中学校では、出産の様子を劇で見せたり、子宮の模型を使って生理の仕組みや辛さを教えたり、模型を使ったコンドームの装着練習なども必要です。

 文部科学省の中学校の学習指導要領では、保健体育で受精・妊娠までを取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないと規定されています。教員にとっては、性交に関する内容を教えるハードルとなっています。この規定も含め、日本の性教育にはなお課題が残り、プレコンセプションケアは、学校現場での性教育の進展へ寄与する可能性を秘めています。

(2025年6月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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