ベーシックインカムとは

新型コロナウイルス禍で失業や困窮が広がるなか、ベーシックインカム(BI)が注目されています。BIとは、収入や所有する資産に関係なく、就労や就労意思の有無も問わず、個人単位に現金を給付することを言います。個人単位とは、世帯単位ではなく、一人一人個別に給付し、何人暮らしかについても考慮しない、という意味です。困っている人を選ばずに、一律に現金を配って支えることを言います。コロナ禍で生活が苦しくなった人が増える中、世界的に関心が高まっています。新型コロナ対策で1人10万円の給付金は1回限りでしたが、BIは毎月のように定期的に支払われます。
今ある社会保障制度は、困っている人を選別し、条件に当てはまる人を助ける発想です。生活保護を受けるには、親族の援助が受けられないといった様々な条件を満たす必要があります。実際は支援が必要なほど貧困なのに、零れ落ちる人たちがいるのが問題になっていました。欧州でBIの議論が盛んになっている背景には、現在の取り組みだけでは不十分なうえ、新自由主義や成長至上主義への批判があります。コロナ禍の欧州では、困窮している人への所得保障が優先的に取り組まれています。
問題は財源です。月10万円を1年間支給するだけで、政府の予算規模に匹敵するのですから、今の財源状況だと難しいと言わざるを得ません。これらの財源を確保するため、巨大IT企業への課税強化も検討すべきです。ITネットワークは利用者の発信や参加によって成り立つ共有地であり、その利益を占有する企業に応分の負担を求めるとい理屈は十分成り立つと思います。
BIは経済理論上は実現可能と考えられていますが、困難な理由はむしろ心理的なところにあります。BIは、働かざる者食うべからずという考え方に直感的に反しているところがあります。BIの議論をすることは、コロナ禍でのこれからの社会が、発想を転換するための有効な手段となるかもしれません。

(2020年12月16日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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