ペプチドによる抗がん剤開発

革新的な医薬品を生みだすために、たんぱく質の断片である分子、ペプチドへの関心が高まっています。ペプチドは、アミノ酸が2~100個程度つながった比較的小さな化合物です。鍵と鍵穴の関係のように、標的とする生体内にあるたんぱく質にうまく結合する特色があります。中心的な医薬品に育ってきた抗体医薬と同じ仕組みですが、抗体は遺伝子を組み換えた動物の細胞で培養するなど製造コストが高くなり、巨大な分子で点滴で投与しなければいけないなど課題も多くなっています。そこで、化学合成が可能なペプチドに目を付け、抗体医薬の代替を狙っています。
日本の製薬企業は得意の化学合成を生かし、1990年頃まで優れた低分子薬を市場に送り出してきました。2000年代に入ると欧米大手が相次いで投入した抗体医薬が市場を席巻し、医薬品と医療機器の分野の日本の貿易赤字は、今や年3兆円に達しています。新薬開発の難易度は増し、1千億円単位の費用と10年前後の期間がかかり、成功率は約3万分の1とされています。低分子薬や抗体医薬に続く第3の医薬品としてペプチドにかかる期待は大きく、日本の製薬が復活するチャンスになる可能性もあります。

(2019年10月13日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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