新型コロナウイルスのパンデミックでは、インフルエンザなど他の感染症の流行が抑えられています。国内で新型コロナの流行が始まった2020年以降、新型コロナ以外の多くの感染症の報告が減っています。国立感染症研究所のまとめによれば、2020年のインフルエンザの届け出数は2019年比で約75%減少し、風疹やコレラなどは約9割も減っています。
減った原因としては、マスクを着ける人が増えたのがその一つです。飛沫やエアロゾルが広がりにくくなり、肺炎などを起こすRSウイルスやインフルエンザなど呼吸器の感染症が減ったとみられます。海外との人の往来がほとんどなくなったことも大きいとされています。麻疹は届け出が約9割減少しており、近年の症例はほぼ全て海外から持ち込まれています。マラリアやデング熱などの減少にも影響したとみられます。
感染性胃腸炎など消化器系の感染症も減っています。外食が控えられ食材を介した感染が減った可能性があります。この他に手洗いの意識が高まり、人同士の接触が減ったことが多くの感染症の減少に関わったとみられています。コロナ禍での医療現場は多忙だったため、患者が新型コロナではないと分かれば、軽い症状なら追加の診断をしない傾向にありました。そのため呼吸器系の感染症の診断がつきにくかった可能性があります。外出の自粛に伴って受診控えが起きた可能性もあります。
感染症への市民の基礎的な理解が深まりました。年齢によって感染症の重症度が異なることや、重症化を抑えるのにワクチンが重要なことなどを多くの人が認識しました。自分の健康の微妙な変化に気をつけるようになった人も多くなりました。コロナ禍で密閉、密集、密接の3密が浸透したのは大きく作用しています。今後海外との往来が増えれば、感染症が持ち込まれて流行する恐れがあります。海外などから多くの人が集まった状態であるマスギャザリングでは特にリスクが高まります。
インフルエンザなどは流行が抑えられている反面、感染して免疫をつけた人が減ったため、今後感染しうる人が増えているとされています。新型コロナの治療薬の普及などで流行が制御できるようになり、それに伴って人流などが増えた際に、インフルエンザが流行し始める可能性があります。インフルエンザは赤道に近い地域などでは流行が続いていますし、鳥やブタなど様々な動物に感染するので今後もなくなることはありません。
子どもは集団生活で様々な感染症に触れて抵抗力をつけるのが、新型コロナ対策でそうした場が減っている面があります。特に就学前の子どもで様々な流行が起きないか注意が必要です。ワクチンがある感染症については、多くの人が接種することで、感染症に弱い人を社会全体で守るという考え方を浸透させることが大切です。
(2022年4月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)