ポピュリズムの台頭に憶う

生活水準低下への不満や現状への閉塞感は、ポピュリズムの台頭を招きかねません。ポピュリズムとは、大衆からの人気を得ることを第一とする政治思想や活動を指します。本来は大衆の利益の側に立つ思想ですが、大衆を扇動するような急進的・非現実的な政策を訴えることが多くなっています。特定の人種など少数者への差別をあおる排外主義と結びつきやすく、対立する勢力に攻撃的になることもあります。
既存の政治に対する不満や現状への閉塞感が高まると、ポピュリズムが台頭しやすくなります。フランスの極右政党である国民連合のルペン氏は、移民排斥などを訴え、2017年に続いて大統領選で決選投票にまで勝ち上がりました。スペインでも4月に北西部の州で極右政党のボックスが初めて州政権入りしています。米国ではトランプ前大統領が正確な事実に基づかない発言を繰り返したほか、極右の陰謀論集団であるQアノンによるフェイクニュースの拡散も問題となっています。
移民排斥などを訴える極右だけでなく、財源の裏付けがないバラマキ型の政策を掲げる左派のポピュリズムも台頭しています。ギリシャでは、反緊縮を掲げてEUと対立した急進左派連合(SYRIZA)が2015~2019年に政権を担いました。スペインでは、2020年に発足した連立政権で急進左派政党のポデモスが与党入りしています。
幸い日本では、今までのところ欧米諸国のようなタイプのポピュリズムの台頭や社会分断は起こっていません。しかし、今後、政治的、経済的、社会的緊張が高まり、より一層の格差社会に陥れば、健全な民主主義の基盤が動揺しかねない状況になりうると思われます。特に経済的な不平等が、人々の利益が顧みられていないといったポピュリストのスローガンにつながることが大いに考えられます。今後は収入の不平等を解決するだけではなく、教育や医療の資源の分配にも気を配り、是正していくことがより一層大切になります。

(2022年4月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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