病気の治療については、各医学会が病気やその原因となる臓器ごとにガイドラインを定めています。しかし、高齢になると抱える病気の数も増え、それに伴い処方薬も増えてしまいます。体調や、検査の数値が変動しやすくなり、血糖値などが異常になることもあれば、何もしなくても正常に戻ることもあります。年齢とともに薬の効き方が変わり、ある病気に対する薬が別の病気を悪化させたりすることもあります。このため厳密に検査の数値を管理しても、高齢患者にとってほとんどメリットがないケースもあります。
従来の学会指針に従い、臓器や病気ごとに診断を下して逐一薬を出していたら、薬の過剰摂取になる危険性もあります。今や、体全体を考え、高齢患者にとってメリットのある治療のあり方が問われています。ポリファーマシーが問題になる中、学会の一部では検査数値の管理を緩める動きも出ています。日本糖尿病学会と日本老年医学会は、2016年に認知症患者の血糖値の目標を緩和しました。さらに、老年医学会は2017年、心筋梗塞などを経験したことのない75歳以上の高齢者は、LDL(悪玉)コレステロールを薬で管理しても、心疾患の予防になるという科学的根拠は少ないとしています。
(2019年9月5日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)