マイiPSプロジェクトへの期待

 京都大学iPS細胞研究財団は、患者などの細胞から個別にiPS細胞のマイiPSを製造し、保管する施設を公開しました。大阪市内にYanai my iPS製作所が完成しました。4月に稼働を始めます。手作業だった製造工程を自動化し、製造コストを大きく下げて治療に役立てます。

 体のあらゆる組織に育つiPS細胞は、必要な組織に分化させて移植するなどして様々な病気が治療できると期待されています。現在、パーキンソン病や視力が大きく低下する加齢黄斑変性などの臨床試験が進んでいます。こうした治験で使われているのは、ほとんどが健康な他人の細胞から作ったiPS細胞で、財団が保管しているものです。

 細胞には血液型と同じようにHLAと呼ばれる型があり、この型が合わない細胞からなる組織を移植すれば拒絶反応が起こります。財団は、保管するiPS細胞を多くの人に適合する型を持つ人の細胞から作ったり、さらにその細胞にゲノム編集を施したりして、拒絶反応が起こりづらくしています。自分の細胞から作るマイiPSなら、ほぼ拒絶反応は起こりません。

 日本を含め世界で、iPS細胞を使った医薬品が承認を受けた例はまだありません。今後、iPS細胞による最適な医療を提供するためにはマイiPSという選択肢を用意しておくことは大切です。他人由来のiPS細胞に何らかの問題が生じた時、マイiPSを使えば解決できる可能性があります。このiPS製作所は、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が毎年5億円を寄付することによって建てられました。

(2025年3月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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