ミトコンドリア病に対する核移植

ミトコンドリア病を予防するための核移植が、英国の下院で認められた。母親に細胞内に多数ある小器官のミトコンドリアに異常がある場合、まずその母親と夫との間でできた受精卵から細胞核を取り出す。健康なドナー女性の正常な卵子を使った受精卵の細胞核を取り除き、交換する形で両親由来の核を移植して胚を作製する。生まれた子どもは、脳や骨格筋に異常が生じる母系遺伝のミトコンドリア病を回避できることになる。

 細胞質にはミトコンドリアという小器官があり、核とは異なる遺伝子が含まれている。この遺伝子に異常が起こるとミトコンドリア病が発症し、出生直後に死亡してしまう疾患も多い。今回の核移植の技術は、これまで米国などでも検討されてきたが、核を取り出し核移植する際に核の周囲に微量な細胞質が混入し、新しくできた受精卵は2人の女性のミトコンドリア遺伝子を持つ可能性も否定できず、その影響が解明できていない。また、父母の由来する核の遺伝子に加えて、ドナー女性由来の細胞質にあるミトコンドリア遺伝子をといった3人の遺伝子を持つ子どもができることになる。こうした医療技術においては、安全面における懸念が払拭されたわけではなく、今後論議を呼ぶであろう。

(2015年2月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

 

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