重い遺伝性の病気「ミトコンドリア病」を防ぐ目的で、他人の受精卵などを利用する新しい体外受精の技術を認める技術を認める法案が、英国議会で承認されました。子どもに病気が伝わらない効果が期待されますが、夫婦と卵子を提供した女性の3人のDNAを受け継ぐことになります。①女性の卵子と夫の精子を体外受精させ、受精卵から核を取り出す、②その核を健康な別の女性の卵子でつくった受精卵から核を取り除いたあとに移す、③核を映した受精卵を、DNAに異常がある女性の子宮に戻すことによって、ミトコンドリア病を防ぐ事ができます。
母親の子宮に移植する受精卵は、両親から核DNAと卵子提供者からミトコンドリアDNAを受け継ぐことになるため、子どもに母親のミトコンドリア異常が伝わるのを予防することができます。しかし、3人の遺伝子を引き継ぐという自然界ではありえないヒトをつくり出す技術となります。また健康な受精卵を壊さなければならないことへの倫理的批判もあります。作成された胚は、移植する受精卵の核の遺伝子とは全く異なるミトコンドリアDNAをもつことによる異常に対し、安全性に関する長期的な影響を検証することが大切です。
ミトコンドリア病とは・・・
細胞には、核と核を取り巻く細胞質があります。細胞質の中には、エネルギ-のもとになる物質をつくるミトコンドリアという器官が無数にあります。核DNAは両親由来のものが子どもに遺伝しますが、ミトコンドリアDNAは母親のものだけが引き継がれています。ミトコンドリアDNAは母から子に伝わるため、異常も受け継がれます。異常なミトコンドリアの割合が高くなると、ミトコンドリア病が発症すると考えられています。これには、リ-脳症、レ-バ-病、ミトコンドリア糖尿病などさまざまな病気があります。
(2015年2月25日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)