近年メンタル分野に関連した労災申請や支給が急増しています。業務に起因するメンタル疾患として労災保険の適用が申請されたのは、2023年度に3,575件と、3年前より74%多くなっています。支給決定は883人と45%増えています。原因はパワーハラスメントなどが多く、支給決定数は、過重労働による脳・心臓疾患の4倍に上がっています。メンタル疾患の急増は、産業医の制度上想定外でした。現在、産業医が向き合う事案の半分はうつ病などメンタル問題です。
うつ病などで休職した従業員の復帰を巡り、会社の産業医と本人の主治医の見解が異なって復職できず、従業員が訴訟を起こす例が相次いでいます。もともと産業医は工場の労災防止などを目的とし、メンタル関連の疾患は想定外です。社会復帰を後押しする主治医との立場の違いもあります。復職判断の円滑化に向けて制度運用を見直す必要性も指摘されています。
主治医は休職者の回復が順調に進めば、社会復帰を後押しする立場にあります。産業医は、所属先企業の現実の働き方や職場環境を基準に、実際に就労可能か職場目線で意見書を出し、会社側の視点がより強いと言えます。それぞれの役割の違いが背景にあります。

(2025年6月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)