アステラス製薬は、双腕ロボットである「まほろ」を使ってiPS細胞の培養作業を自動化します。人間の作業を機械化してミスを減らせば、培養の成功率を今より6割以上高められます。実用化できればiPS細胞の活用の後押しにつながりそうです。
iPS細胞は培養して増やした後、神経細胞や血液細胞など治療に使う目的の細胞に分化させる必要があります。こうした作業には熟練した研究者の手技が必要な一方、誤差もありました。温度など微妙な条件の違いで、目的とは異なる細胞に分化するリスクがあります。
まほろは、人間では手が震えるような細かい作業も、角度や速度を一定に保って正確に器具を操れます。細胞の培養の成功率は、50%程度から80~90%に高まります。24時間365日稼働するロボットを使えば、高精度で実験を繰り返すことができて、より多くの培養条件を比べられます。AIと組み合わせ、従来と同じ時間で100~1,000倍規模の実験をこなせるようになります。
既にロボットが自動で研究室内を回り、実験用試薬などを顕微鏡や遠心分離機、冷蔵庫に運んで設置しています。細胞培養プレートの搬送などはロボットが実験的に担っています。一般的に医薬品の研究開発には10年以上かかり、成功率は約3万分の1といわれています。創薬現場で、自動化ロボットとAIの活用で創薬の高度化や効率化が進みます。余裕が生まれれば研究者同士の協力による技術革新も期待できます。
(2023年10月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)