ワクチンの安全性の検証

ワクチンの安全性に関する詳細な分析に注目が集まっています。安全性の検証を多角的に詳細に続け、結果をきちんと公表することがワクチンの理解に不可欠です。新型コロナウイルスのワクチン接種においても、安全性の懸念はつきまとっています。新型コロナのワクチンでも、5~11歳対象の接種についての議論が厚生労働省の専門部会で始まっています。子どもは重症化しにくいとされているため、重症化などの予防効果と副作用のリスクとを比べて慎重に見極める必要があります。
日本小児科学会は、おたふくかぜワクチンの接種後の経過を報告してもらう全国調査を進めています。定期接種になるために必要とされる10万~20万人のデータを2022年3月までに集める予定です。おたふくかぜは耳下腺の腫れや痛み、発熱などが起きます。原因ウイルスの感染力は強く、国内では数年に一度流行が起きています。軽症で済むことが多いのですが、10人から100人に1人の割合で頭痛や嘔吐を伴う無菌性髄膜炎が起きます。さらに問題は400人から1,000人に1人ほどが重度の難聴になることです。
おたふくかぜワクチンは1歳から接種できますが、費用が自己負担の任意接種のままです。おたふくかぜワクチンが任意接種に据え置かれているのには、1993年に厚生労働省がMMR(新三種混合)ワクチンの接種を中止したことが関係しています。麻疹・おたふくかぜ・風疹を予防するワクチンでしたが、接種後に無菌性髄膜炎が、約1,000~2,000回に1件の割合で報告されるなどして中止に至ってしまいました。ワクチンの安全性が問題になり、その後健康被害についての訴訟では国が敗訴しています。
ワクチンは接種することで起こりうる健康被害を見落とさず、万が一起きた時には十分に救済しなくてはなりません。一方で、接種しないことで起きる可能性がある病気のリスクを下げるのが本来の目的です。接種と症状の因果関係を調べるには、接種した人の集団としていない集団それぞれで症状の報告を集め、頻度の違いを比べるのが理想です。米国などでは、接種歴と医療記録を連携させたデータベースを作り、新型コロナでも活用中です。
定期接種ながら接種率が低迷している子宮頸がん予防のHPVワクチンも動き出しました。2013年から国は接種の積極的勧奨を差し控えていましたが、厚生労働省の専門部会が、ワクチンの積極的な勧奨の差し控えを終了すべきだと結論づけました。その際考慮されたデータの一つが、名古屋スタディーと呼ばれる研究です。名古屋市の女性約3万人について、接種後に起きるとされた様々な症状の有無を調べたものです。症状を持つ人の割合は接種によって有意に増えておらず、ワクチン接種と症状との因果関係は見られなかったことが示されています。
HPVワクチンと同様に、おたふくかぜに罹り難聴になってから、ワクチンを接種しておけば良かったと思うことは残念です。今回の全国調査により、安全性が高いと判断されれば定期接種となり、誰もが受けられるようになることが大切です。

 

(2021年11月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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