不妊治療後の子どもをもつ選択肢

国は児童養護施設や乳児院で暮らす約2万6千人の子どもも、家庭と同様の環境で育つことが望ましいとの方針を掲げています。施設で集団生活をするより、特定の大人から愛情を受けられる特別養子縁組を子どもの最善の利益の一つと位置づけています。厚生労働省は、家庭での養育を増やすため、今春に不妊治療の保険対象を広げたのに合わせて、特別養子縁組や里親を周知するポスターやリーフレットを作っています。
特別養子縁組とは、産みの親が育てられない15歳未満の子どもが自治体や民間団体を通し、子どもを育てたい人と法律上の親子になる制度です。戸籍の上で産みの親との関係が残る普通養子縁組とは違い、法的にも育ての親の実子扱いとなります。2020年度には全国で693件が成立し、10年前から2倍に増えています。大半が乳幼児です。
不妊治療をする人の絶対数が増えれば、出産というゴールを迎えられない人も増えています。自らの遺伝子を継いだ子どもを育てたいとして、子を持つことを断念するカップルも多くみられます。しかし、不妊治療をしているカップルに特別養子縁組や里親になることによって、子どもを持つ選択肢があることを伝えることは大切です。実際に特別養子縁組を希望する夫婦の多くが不妊治療経験者です。いつまで不妊治療を続けるのか、生殖医療や社会制度はどの段階まで使うのか、孤立して悩みを深める患者も多くみられます。
国が不妊治療の初期段階で特別養子縁組の選択肢を伝えるよう推奨したことは評価できます。制度を知らず、いざ養親になりたいと思っても高齢を理由に委託されにくくなる例も多くみられます。治療しても妊娠できなかった人の喪失感は大きく、縁組に進む場合も専門家による心理ケアが必要となります。戸籍上は実の親子になります。産みの親の存在を明かす真実告知やルーツへの想いなどで問題が起きることもあります。縁組後のフォロー体制も大切です。治療後にはパートナーと2人で暮らすことや、養育里親として縁組を行わずに社会的養護を必要とする子どもを育てることもできます。子どもを望む治療者がどんな選択をしても、プレッシャーにさいなまれず生きていける社会をつくることが大切です。

(2022年7月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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