海外の大学は、多額の寄付金を独自に集め、大学ごとに基金を運用しています。内閣府の資料によれば、米ハーバード大学が4.5兆円、英ケンブリッジ大学が1兆円規模の基金を持っています。米エール大学や英オックスフォード大学は、年9%の収益を出しています。研究費のほか優秀な研究者の獲得に活用しています。卒業生の寄付金が主な原資で、大学の自己責任で運用のリスクを取っています。
世界のトップレベルの大学に比較して、わが国の大学の基金は極端に低レベルです。このような状況では、日本の大学は米欧に比べ国際競争力が劣ると言わざるを得ません。英誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の2021年の世界大学ランキングで、日本から100位以内に入ったのは、東京大学と京都大学の2大学だけです。
政府は、2021年度中にも10兆円の大学ファンド(基金)の運用を始めるとしています。運用益で世界レベルの研究を担う大学を支援し研究力の底上げにつなげることを目的としています。支援校は、国際卓越研究大学に選定し、当初は2~3校で段階的に6校程度に拡大するとしています。年3,000億円の運用益を目指し、1大学あたり数百億円規模を支援します。
ファンドは研究力の向上だけを目指すのではありません。財務や事業展開の戦略を重視して大学が経営的に自律できる体質を促す狙いがあります。事業収入は国立大学の場合、大学発ベンチャーを通じた知的財産による収入、企業からの共同研究の協力金などを指します。大学は3%成長が可能になるような事業戦略を示し、政府が審査します。
研究力は論文の引用数などを判断材料にします。日本の研究力は低下の一途をたどっています。研究分野ごとに引用数がトップ10%に入る注目論文の数は、インドに抜かれて世界10位に落ちました。1980~1990年代前半は米国、英国に次ぐ3位でしたが、2000年代半ばから急落しています。研究力が低下した要因に、2004年の国立大学法人化に伴う大学の運営費交付金削減と、人件費削減の影響が挙げられます。科学技術予算は他国に比べて伸び悩んでいます。ファンドによる大学への支援だけでなく、ボトムアップで研究力を引き上げる施策も同時に必要となります。
(2022年2月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)