日本のエネルギーおよび環境政策は、重要な転機を迎えています。2020年10月、2050年時点でカーボンニュートラルを実現することを政府は宣言しました。2021年4月には、2030年度時点で温暖化ガス排出量を2013年度比で46%削減するとの目標を掲げています。エネルギー政策は、減炭素から脱炭素へと大きくかじを切っています。
世界主要国のエネルギー事情をみてみると、自給率30%は既に多くの国が上回っており、日本の現状の12%は強い危機感を持って受け止めるべきです。エネルギーの安定供給の達成には、自給率50%以上を目指さねばなりません。日本の状況は、自給率、カーボンフリー電源の割合ともに低く、憂慮すべき水準にあることを認識してエネルギー政策を定めなければなりません。
自給率が30%以下で、かつカーボンフリー電源の割合が50%を下回るのは、韓国、日本、ルクセンブルクだけです。オーストラリア、カナダ、米国は自給率が100%を上回っています。フランス、ドイツ、スウェーデン、英国、米国、カナダは、いずれも原子力発電がカーボンフリー電源割合向上とエネルギー自給率向上に重要な役割を担っています。またルクセンブルクのような小規模国は、電力の輸入よりエネルギーを確保しています。電力供給系統が連携する欧州の特徴でもあります。
原子力発電は、過去50年間に、世界の二酸化炭素発生量を600億t削減しています。フランスのように電力需要に応じて原子炉の出力を変化させる負荷追従運転をすれば、気候条件に左右されるという再エネの弱みを補ってカーボンニュートラルに大きな貢献ができます。原子力発電と核燃料サイクルを組み合わせれば、将来にわたるエネルギー確保に貢献すると考えられています。
原発事故から間もなく11年を迎えます。原発事故が残した負の遺産はいまだに重く、国民の負担となっています。何よりも事故炉の廃止措置は、技術的に最も困難な課題であるとともに、経済的にも社会的にも、今後40年以上にわたり取り組んでいかなければならない問題です。福島の復興と避難した被災者の健康、生活、環境回復なども、負の遺産として責任を持って取り組まなければいけない課題となっています。
これら負の遺産が解消されないまま、原子力を成長産業として位置付けるのは、事故の反省を踏まえた原子力政策とは言い難いと思われます。負の遺産の再評価も含めて、原子力発電の現状を客観的かつ総合的に評価し、国民的議論を経て原子力政策を見直す時期が来ています。これまでの評価では、原子力推進を前提とする省庁・機関が中心となっていました。推進・反対のどちらの立場にも偏らず、政府から独立した機関で客観的な評価をすべきです。
(2022年2月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)