体外受精を始めとする生殖補助医療に対しては、婚姻関係にある夫婦に不妊治療費が助成されています。しかし、事実婚カップルに対する助成は、一部の自治体が独自に実施していますが、国は認めていません。一方、公的年金では事実婚のパートナーにも遺族年金が支給されています。さらに健康保険でも法律婚と同様に被扶養者になることができます。このような他制度との整合性を考慮し、厚生労働省は、事実婚カップルでも不妊治療助成が受けられるかどうか、去年より検討していました。塩崎前厚生労働大臣も、多様化している家族の在り方を受け止めなければならない状況にあるとしていました。去年7月に厚生労働省が開いた有識者の会合でも、拡大を求める声が多く、助成金支給の見直しを検討していました。
しかし、現行では事実婚で子どもの父親を確定するには男性の認知が必要となること、父親の確定があいまいになる可能性があるとの懸念が根強いことをふまえ、事実婚カップルへの助成は見送ることにしました。日本産科婦人科学会は、2014年の会告の見直しで、「婚姻している」という文言を削除し、法律婚でなくても体外受精は実施可能としています。実際に、事実婚であっても体外受精を受けているカップルも多数みられます。医療サイドからすれば、事実婚であっても不妊治療を受けられるようにするのは当然のことと思われます。医療現場においては、社会通念上の夫婦においても不妊治療を受ける権利を尊重しなければなりません。しかし、会告を見直した際には、多くの自民党議員の方々からわが国固有の家族観に反するとして、御批判を受けました。
(2018年1月18日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)