人への投資は、従業員のリスキリングや賃上げ、職場環境の改善などを通じて、企業が従業員の働きやすさや働きがいを高めることにつながります。企業価値の向上につなげるため、人材をコストではなく、資本と考える点に特徴があります。従業員の能力を伸ばし、社員が生きがいを感じるような企業は、株価や業績が好調です。
人への投資に関する情報は、非財務情報と呼ばれ、有価証券報告書や決算短信で開示が義務付けられている売上高や利益などと異なり、共通の測定指標や開示ルールがありません。自主的に開示する企業は、あるものの一部にとどまり、企業間の比較も困難です。投資家からの関心が高まるなか、岸田政権は人的資本に関する情報の開示を企業に求める方針を打ち出しています。
日本は人への投資で後れを取っています。厚生労働省の推計によれば、GDPに占める企業の能力開発費の割合は、2010~2014年の平均で0.1%に過ぎません。米国や欧州は1~2%で推移しています。OECDによれば、仕事に関連するリスキリングへ参加する人の割合は、日本は35%で、50%前後の米国や英国に比べて低率です。
(2022年8月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)